これからの「お金」の話をしよう

(旧 システムトレードのススメ)

幻のアルファ

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市場分析や売買シミュレーションを行っているとき、ふとした弾みで利益に繋がるような発見をすることがあります。

 

「あれ、なんでこんな特性が出るの??」

 

最初はデータの間違いではないかと疑います。

しかし、何度確認してもデータは正しく合っています。

 

「うおおおおお、きたーーーーー!!」

長年の検討が実り、ついに利益となるストラテジーを発見することができたのです。

 

・・・この話のオチは見えていると思います。

実際に取引しようとしてみると、「何かおかしい・・・」となるわけです。

 

今回はそんな事例を紹介します。

特に、実際には株式取引を行っていない研究者が陥りがちな過ちだと思います。

また、自作のツールで分析を行っている人も注意が必要です。

 

 

1.新興市場の銘柄は特に注意

 

(1)幻のアルファ

 

まずは以下のグラフをご覧下さい。

これは、新興市場におけるファクターリターン(の積み上げ)を示しています。

 

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ユニバースは新興市場全体ではなく、簡単な条件で絞り込んでいます。

具体的にファクター名を公表しますが、このファクターは「5日騰落率」です。

 

グラフを見て分かるように、ファクターリターンがきれいに負方向へ推移していることが分かります。

誰でも知っている単純なファクターでこれほどまでにきれいなカーブが得られるのです。

 

「5日騰落率」の高いものをショートし低いものをロングすれば、この直線と似たようなバランスカーブを実現することができます。

ただし、「机上計算の上では」ですが。

 

 

実際に取引しようとしてみると、すぐに「ある事実」に気付きます。

そう、「ショートできない」んですね。

信用取引では売りから入れる、というのは常識なのですが、銘柄によって売れるものと売れないものがあるのです。

 

 

(2)銘柄の貸借区分

 

株式市場の銘柄の種類は、以下のように分類されます。

 

(a)貸借銘柄

 信用取引できる。買いも売りも両方できる。

 

(b)貸借融資銘柄

 信用取引できるが、買いのみである。売りはできない。

 

(c)非制度信用銘柄

 信用取引できない。

 

※今回は制度信用だけ考えて、一般信用は考えません。

 

このように、売りができない銘柄が存在するのです。

では各市場について、売りができない銘柄の割合はどれくらいなのでしょうか?

 

(A)東証1部

 268銘柄/2030銘柄 全体の約13%が売れない

 

(B)東証2部

 369銘柄/522銘柄 全体の約70%が売れない

 

(C)新興市場(JASDAQおよびマザーズ)

 808銘柄/989銘柄 全体の約82%が売れない

 

新興市場では8割以上の銘柄が売りから入れません

要するに、上記の特性は「売れない銘柄が下げる」ことで具現化した幻のアルファなのです。

 

 

2.他にもこんな規制がある

 

その他にも以下のような取引規制が存在します。

これらを考慮していない場合、幻のアルファを発見してしまう可能性があります。

 

(1)東証の行う取引規制

 

(a)売買停止

投資者の投資判断に重大な影響を与えるおそれがあると認められる場合、東証が売買を停止することがあります。

経営統合、公開買付、第三者割当増資、管理銘柄や整理銘柄への指定などがこれに当てはまります。

 

(b)信用取引に関する規制(増担)

極端な値動きをしている銘柄(25日移動平均からの乖離率で判定されます)について、信用残高、信用売買比率、売買回転率から信用取引が過度に行われていると判断された場合、取引量を抑制する目的で増担(担保を増やす)が行われます。

第3次措置まで段階を踏んで行われます。

 

流動性が急に減少するためスリッページの影響が大きくなったり、意図したポートフォリオが組めなくなる場合があります。

 

(c)信用取引に関する規制(信用取引停止)

(b)の第4次措置として、新規の信用取引(買い、売り)を停止します。

 

(d)制限値幅

要するにストップ高/ストップ安です。

当然ながら売買できなくなります。 

 

 

(2)日証金の行う取引規制(貸借取引に関する規制)

 

貸株の調達が困難となった銘柄について、信用売りや現引きが停止となります。

 

 

(3)証券会社が個別に行う取引規制

 

証券会社が個別に取引規制を行う場合があります。

これは各証券会社のHPでチェックすることができます。

 

 

3.規制以外の要因

 

取引規制以外にも、以下のような要因で幻のアルファを発見してしまう可能性があります。

 

(1)逆指値

 

スリッページの影響で、実際に運用した場合に利幅が極端に小さくなります。

 

(2)流動性不足

 

主に売買代金の小さい銘柄を取引する場合に発生します。

自己の取引によるマーケットインパクトが大きくなり、利幅が極端に小さくなります。

 

(3)情報取得と取引執行までのラグ

 

例えば、当日引け時点の指標で成り引けで売買するような戦略に発生します。

確かに時系列上は矛盾は生じていないのですが、実際の取引ではどうしても情報取得から取引執行までにタイムラグが生じます。

そのタイムラグにより、本来得られるはずであった利益を喪失してしまいます。

 

(4)逆日歩

 

貸株が不足している場合、売り建てを作るときに品貸料を払う必要が生じます。この品貸料を考慮すると利益が全く出なくなる場合があります。

 

 

4.まとめ

 

以上をまとめると、特に注意しなければならないのが「小型銘柄の売り戦略」ですね。

 

論文などでも恐ろしく良いパフォーマンスを見掛けることがありますが、「幻のアルファ」でないか、自身で判断することが大切だと思います。