さて、前回の記事では、TOPIX500銘柄に翌日反発する特性があること、そして騰落率の最も激しいグループではその特性が反転していること、を説明しました。
前回の話
図1. 騰落率グループごとのリターンの期待値
(←騰落率が高い 騰落率が低い→)
図2. 細分化した騰落率グループごとのリターンの期待値
(←騰落率が高い 騰落率が低い→)
1) 逆張りするグループを変更する
以上のことが分かったため、取引の条件を変更します。
もともと、最も端のグループについて逆張りの方向に売買していたのですが、このグループには反発の特性が見られませんでしたので、その内側のグループを逆張りの方向に売買するようにします。
もともとのルール:
「前日の騰落率がトップ10の銘柄を売り、ワースト10の銘柄を買う」
(=最も騰落率の高いグループP1-1を売り、最も騰落率の低いグループP10-5を買う)
新ルール①:
「2番目に騰落率の高いグループP1-2を売り、2番目に騰落率の低いグループP10-4を買う」
では、この内容で資産曲線のシミュレーション結果を見てみましょう。
図3. 新ルール①で運用したときの資産曲線のシミュレーション結果
ちゃんと資産が伸びるポートフォリオになりましたね!この時点で、利回りはおよそ9.2%となっています。
2) もともとのグループを順張りでトレードする
さて、ここまで説明しましたが、勘の良い人なら「逆張りにこだわらず、端のグループを順張りで売買したほうが利回りが上がるのでは?」と考えたと思います。
これはその通りで、もともと端のグループを逆張りしていたら、利回りがマイナス11.5%になっていましたので、これを真逆にして順張りにすると、利回りが反転します。
もともとのルール:
「最も騰落率の高いグループP1-1を売り、最も騰落率の低いグループP10-5を買う」
新ルール②:
「最も騰落率の高いグループP1-1を買い、最も騰落率の低いグループP10-5を売る」
図4. 新ルール②で運用したときの資産曲線のシミュレーション結果
この曲線では、利回りは11.5%となりました。
上記の新ルール①と新ルール②では、1つ、重大な問題があります。それは、「資産曲線が安定しない」ということです。
グラフを見るからにガタガタになっています。これは、ボラティリティ(=リスク)が高く、資産が安定して伸びないことを示しています。それゆえ、ドローダウン(損失が膨らんだときの最大値)も大きく、これらのルールをシャープレシオで評価した際に、低い値となってしまいます。
※シャープレシオは、ある量のリスクを取ったとき、どれだけリターンを得られるか?という指標で、リスク調整済リターンなどと呼ばれます。投資戦略の性能を図る尺度としてよく用いられます。以下、簡易式です。
(シャープレシオ)=(リターン)/(ボラティリティ)
では、この問題を解決するために、新ルール①と新ルール②を組み合わせた、新ルール③を作りましょう。
3) 組み合わせによるシステム性能の改善効果
みなさんは、「分散投資がリスクを低減する」という言葉を、よく耳にしていることでしょう。
ここでいうリスクが、ボラティリティのことです。
相関のないいくつかの銘柄や投資戦略を組み合わせることで、ボラティリティが低減される、とうのがポートフォリオ理論ですね。
では、新ルール①と新ルール②を組み合わせた新ルール③を作って、その効果を確かめてみましょう。
この複合ポートフォリオは、「騰落率の高いもの同士でのロングショート、騰落率の低いもの同士でのロングショート」となっており、
似通ったプロファイルの銘柄でのロングショートとなっているため、安定性向上に期待が持てます。
それでは結果です。
図5. 新ルール③で運用したときの資産曲線のシミュレーション結果
かなり安定しました。これで利回りは10.3%です。明らかにガタつきが低減され、滑らかな曲線に近づいています。
分散効果が証明されましたね。これで、ずいぶんとシャープレシオが改善されているはずです。
ただし、上記までの検討には手数料などのコストが全く考慮されていません。
この手法は取引当たりの利幅が非常に薄く、取引コストを考慮した場合にはかなり大きく劣化することが想定されます。
まとめ
では、冒頭の質問を思い出してみましょう。
例えば、「前日の騰落率がトップ10の銘柄を売り、ワースト10の銘柄を買う」というルールで毎日売買したとすると、直近5年平均の利回りはどうなると思いますか?
A)5% B)10% C)20%
(1)上記の質問そのままの答えは、
D)マイナス10% 笑
(2)改良を加えることで、
B)10%
(3)ただしコストを考慮すると、
A)5%
複雑な答えとなってしまいましたが、上記の通りです。
この手法では、毎日買い建てと売り建てを繰り返すので、手数料と手間の両方の意味で、コストがかなりかかります。このコストを考慮にいれると、このまま運用するのは厳しいと思います。
一筋縄ではいきませんね。今回の検証は、以上でした。