楽天証券がPTS(私設取引システム)の取り扱いを開始するようです。
「PTSの取り扱いを開始する」と言っても自社でPTS市場を作るわけではなく、「既存の2つのPTSであるSBIジャパンネクストとチャイエックス・ジャパンへの注文の取次ぎを開始する」ということです。
楽天がPTSの取り扱いを始めるのは、「PTSの信用取引の解禁の動き」が背景にあると思います。
1.PTSの信用取引解禁の動きについて
金融庁は2016年に「PTSの信用取引」の規制緩和について検討を開始しています。
これはつまり「夜間にも信用取引できるようになる」ということです。
金融庁がこれを推進する理由としては、やはり国内の株式取引を活性化して外資を流入させ、株高を維持することだと考えられます。
当初、金融庁は2016年末を目処に結論を出し、早ければ今年2017年からの解禁を視野に入れていました。
しかし2016年12月に開催されたワーキンググループにおいて、PTSにおける信用取引の課題が散見されたため、これを受けて2017年2月に「PTS信用取引検討会」が設置されて検討が行われています。
この検討会では2017年6月にいったん課題の洗い出しを完了していますが、その後の進捗についてはよく分かりません。
2.PTSが価格形成に与える影響
米国ではダークプールや複数市場間におけるフロントランニングが問題となりましたが、日本でPTSの取引量が増えることによる影響はないのでしょうか?
PTSが株価形成に与える影響については、その検討結果がJPXワーキングペーパーで公開されています。
「高頻度注文板データの統計解析:異市場・同一株式価格間の先行遅行関係」、林高樹
この論文により、以下のような現象が実証的に発見されています。
・東証の値動きのほうがPTSに比べて4msec程度先行する。
・過去に行われたティックサイズ変更は、この東証の値動きの先行度合いを高める方向に働いた。
これを狙った裁定取引ができるかどうかは分かりません。
各証券会社はSOR注文(東証とPTSの価格を比べて有利な条件で注文を執行する方法)を備えており、価格の効率化はかなり進んでいるように思います。
感覚論になってしまいますが、PTSの取引量が増えた場合にはこの先行遅行関係は減少する方向ではないかと思います。
逆にPTSの取引量が減った場合は、流動性不足により遅延が大きくなる方向になると思います。
3.システムトレードへの影響
現在、PTS市場の出来高は株式取引全体の約5%であると言われています。
この比率、特に夜間取引の比率が上昇した場合、どのような影響が発生するのでしょうか。
第一に考えられるのは、「日中のアルファの減少」です。
欧州時間帯や米国時間帯に何らかの動きが発生した場合、PTSの流動性が十分確保できていればそれらの売買がPTS市場内で完結することになります。
これまでであれば翌日の前場に発生していた値動きが、夜間中に解消してしまう可能性があります。
第二に考えられるのは、「市場特性の変化」です。
現在、東証の売買高は7割が海外投資家と言われています。
夜間の信用取引は、海外投資家の売買高を更に助長する可能性があります。
海外投資家の売買傾向は個人投資家とは相反しており、投資主体の割合が変化することによって市場特性が変化する可能性があります。
システムトレードを行う方は、このような市場環境の変化を注視しておく必要があります。
今回は、定性的な課題提起となってしまいました。
PTSにどれだけアルファが転がっているか、検証するのもおもしろいと思います。