6月25日の21時より、NHK総合にて「人工知能 天使か悪魔か 2017」が放送されました。この番組では人工知能の各分野への応用について紹介がありましたが、その中に金融分野への応用に関する事例がありました(わずか2分半ばかりでしたが)。
人工知能の金融分野への応用にはいくつか種類がありますので、まず簡単に説明しておきます。
(1)投資判断支援
例えば決算短信を要約したり、WEB情報を集積して配信する分野です。大手情報サービスのQUICKや、フィスコ、ゼノデータなどがこれを手掛けています。
(2)取引執行支援
野村證券やみずほ証券が顧客の機関投資家向けに行っているサービスです。短時間での値動きを予測し、少しでも有利なポイントでの注文執行を実現する手法です。
(3)投資指標抽出
いくつかの手法に分かれますが、画像やテキストなどの非構造データをラベル付けして数値化し、投資指標として活用する手法です。例えば米大手ヘッジファンドのツー・シグマは、衛星写真を分析して駐車場の混雑具合から売上を予測するようです(このようなやり方は公正取引委員会により今後規制される可能性が高くなっています)。
またWEBのニュース記事やツイッターを分析する手法は、国内ではマグネマックスやファイブスター、海外ではゴールドマンサックスが話題に挙がります。
(4)投資銘柄選定
人工知能(=機械学習)により直接株価を予測して投資銘柄を選定する分野であり、投信として売り出す場合と、自社運用する場合があります。
今回の放送では、上記(2)の分野である野村證券の事例が紹介されました。本コラムのタイトルである、「トレーディングフロアにおけるAI」です。
◆NHKの要約と所見
・野村證券は、年金などを運用する機関投資家の取引執行に人工知能サービスを導入(2016年より)。
・東証500銘柄、ティック、直近1年間のデータから値動きの法則性を見つけ、5分後の株価を予測する。
・東証から1秒間に最大で2万5000メッセージが配信される。
・執行もプログラムで処理する。
さて、NHKの放送では、「どれだけ優れたAIを開発できるかがマネーゲームの勝者と敗者を分ける」とのナレーションがありましたが、そのようなことは決してありません。このような誤解を生む表現が、世間に対してAIというものを過大評価させる原因となります。
AIによる取引執行支援はあくまでも執行タイミング調整によるコスト削減が目的であり、要するに過去の訓練データを使ったVWAP等の最適化でしかありません。AI導入により執行コスト分をペイできればよいという考え方であり、勝率を気にする必要はなく、近年のAIブームに乗っかって広告価値が高いため開発側としては比較的気楽に導入できます。その反面、データの扱いは大容量化・高速化が必要で、インフラの規模は大きくなってしまいます。これらのAIによる取引は、一日の取引量や中長期的な価格形成に影響を与えるものではありません。ただし一日の中では、価格形成の歪みや効率化を促す要因となりえます。
また、放送では日次データでなくティックデータを扱うことが強調されていました。TOPIX500銘柄の一日の総Tick量は、およそ100万Tick~150万Tickです。1年間の総延べサンプル数は最大で3億6000万程度にもなります。これらを全て同列にデータセットとしてしまうと当然何も見えなくなってしまいます。みずほ証券のAIのように時間毎にプロファイルを分けるなど、何かしらの工夫が必要となります。この辺りには証券会社固有の知識が織り込まれているはずです。何となくですがディープラーニングには時系列を扱うリカレントNNは採用されていない気がします。「(トレーダーは)人工知能の行う取引をじっと見つめるだけである」など、恣意的な演出が目立ちました。
とりあえず書き始めたものの、今回は大した記事にならなくなってしまいました。以上です。
<参考:野村證券のAI手法~AI投資(4)より>
・2016年4月から一部の機関投資家向けに試験的なサービス提供を開始。
・AI手法はディープラーニング。
・対象銘柄はTOPIX500、5分後の株価を予測。
・使用するデータは株価の過去の乖離率など
・的中率は100%ではないが(当然ですが笑)、多くの銘柄で大量の注文を執行する際に有効。
・AIベンチャーであるHEROZと共同開発。