これからの「お金」の話をしよう

(旧 システムトレードのススメ)

「AIがウォール街を乗っ取れない理由」を考察する

f:id:uki-profit:20170830134713j:plain

「AIがウォール街を乗っ取れない理由」-2017年7月19日、WSJ

jp.wsj.com

 

投資分野へのAI活用は注目を集めていますが、中には否定的な記事もいくつか見られます。

この他にも以下のような記事があります。

 

「人工知能、本当はどのくらい賢いのか」-2017年6月29日、Bloomberg

「AI、投資で人間に敗れる?」-2017年6月30日、ゆかしメディア

 

 

当ブログもつい最近、ツー・シグマ・インベストメンツの不調について記事にしたところです。

 

we.love-profit.com

 

 

WSJの記事によると、人工知能を投資へ活用するには3つの深刻な問題があるそうです。

(1)過学習になりがちなこと、(2)可読性を持たないこと、そして(3)長期投資できないことです。

 

 

今回は、これらの点について「AIがウォール街を乗っ取れない理由」を考察していきます。

 

 

前提条件

まず、前提としてWSJの指摘するAIがどのようなものか明確にしておきます。

 

投資におけるAI活用の種類は以下のコラムでも説明したとおり、

(1)投資判断支援、(2)取引執行支援、(3)投資指標抽出、(4)投資銘柄選定

の4つに分類されます。

 

we.love-profit.com

 

 

WSJの指摘するAIとは、(4)投資銘柄選定を行うAIのことです。

 

つまり、「個別アセットの騰落率なりそれに準ずるものを解答ラベルとした教師付き機械学習」であり、

ニューラルネット、ランダムフォレスト、サポートベクターマシンなどがこれに当たります。

 

これは、手持ちのデータ(特徴量)を全て使ってどれだけ予測精度の高いモデルを作れるか、という取り組みです。

 

では、各問題について中身を見ていきます。

 

 

問題1.過学習

機械学習はパラメータが多く、簡単に過学習してしまいます。

WSJの説明を要約すると、

 

・過学習を避けるために論拠のあるルールを採用する(つまり演繹的な選別)

・ただしAIが複雑すぎて、その判断ができない

 

という何ともお粗末な話しか記載されていません。

 

 

機械学習には当然ながら「過学習を抑制する技術」が存在します。

ニューラルネットであればドロップアウトがこれに当たりますし、

他の機械学習手法であれば正則化であったり、交差検証であったりします。

 

また、機械学習手法の中にはメカニズム的に「そもそも過学習が起こりにくい」ものもあります。

 

では、過学習を避ければ実際の運用で利益が出るのでしょうか?

 

決してそんなことはありません。

以前、当ブログでもディープラーニングを例にとって説明したとおりです。

 

「過学習」のないモデルを作ったとしても、

運用を開始した後に市場が変化してしまった場合は利益は出なくなります。

 

真の問題とは「過学習」ではなく、「市場の変化」であり、

これに対してロバストであるか否かが重要です。

 

ロバストには「静的にロバスト」と「動的にロバスト」の2つがありますが、後者を実現することはかなり難しいと思います。

 

we.love-profit.com

 

 

問題2.可読性 

機械学習はパラメータが多く、可読性を持たない場合が殆どです。

WSJの説明を要約すると、

 

・ファンドによっては最終的な意思決定は人間が下しているため可読性が必要

・損失を出しているとき、理由がはっきりしなければ運用を遮断するしかない

 

しかし運用しているAIは当然過去のテストでパフォーマンスが保証されている筈です。

なぜこのような必要が発生してしまうのでしょうか?

 

結局のところ、「AIを信用しきれていない」のが原因だと思います。

ではなぜ信用できないのでしょうか。

おそらく運用しているAIが完璧とは言えないのでしょう。

過学習の可能性があるとか、「市場の変化」に脆弱であるとか。

 

この問題の根本を辿れば、どうやら問題1に突き当たるようです。

 

 

 

問題3.長期投資できない

この問題をもう少し分かりやすく説明すると、

「AIをずっと運用していくと、いつかは過去に例を見ないような状況に遭遇する」

という意味で「長期投資できない」ということです。

 

WSJの記述では、

 

・過去35年についてAIに学習させれば、米国債の買いを推奨する筈だ。しかし次の35年に再びそうなるとは限らない。

・長年にわたって相関関係が実証されていたものの、金融システムの崩壊を受け、それがもはや該当しない。 

 

とあります。

 

これは問題1でも説明したとおり、「市場の変化」に起因します。

 

 

 

ここまでに見てきたとおり、

これらの3つの問題を整理すると結局は1つの事象に帰結します。

 

「市場というものは、過去にないような構造に変化する可能性がある」

 

しかしよく考えてみると、この問題はAIに限った問題ではありません。

これはつまり、「未来を予測する」という非常に困難な問題なのです。

 

 

結論を言うと、当然ながら未来を予測することは不可能です。

従ってこの問題に対する合理的な取り組みはたった1つしかありません。

 

「世界の変化を注視しながら、次々と新しい戦略を考案し、試行錯誤を繰り返す」

 

これをAIに丸投げできるようになれば当然人間は不要となり、ウォール街はAIに占拠されてしまうのでしょう。

 

しかし残念ながら、現時点におけるAIとはまだその領域まで到達していません。

これが「AIがウォール街を乗っ取れない理由」だと考えています。

 

 

参考までに以下の記事中の東京大学の和泉教授も同様の意見となっています。

news.yahoo.co.jp