これからの「お金」の話をしよう

(旧 システムトレードのススメ)

2016年をシストレ的目線で振り返る

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2016年もそろそろ終わりです。

2016年はチャイナショックに始まり、2月の世界同時株安を切り抜け、6月の英EU離脱を乗り切って最後の最後でトランプ相場で盛り返す、というジェットコースターのような相場でした。本年最後のコラムとして、2016年がシストレ的な目線でどのような年であったか振り返ってみます。

 

まずは今年が例年と比較してどうであったかを振り返ります。以下は日経平均株価の年足です。2016年は大きな下ヒゲが発生し終値≒高値で胴体部が殆ど無いような形です。サブプライムローン問題が顕在化した2007年の前年である2006年にそっくりの形と水準であり、「来年は大丈夫なんだろうか・・・」と一抹の不安がよぎってしまいます。なお2016年の日経平均の日次リターンの標準偏差は1.72%であり、ボラティリティで見ると2000年から2016年の17年間で4番目の大きさでした。

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次に年内の値動きに目を移し、TOPIXのリターンを観察していきます。ここではギャップのリターン(オーバーナイトリターン)と日中のリターン(イントラデイリターン)に分けて観察します。

まずギャップですが、とりたてて顕著な特徴は見られません。今年は「ロングオーバーナイトが突出して機能した」などということは無いようです。

次に日中ですが、後半期から緩やかな上昇トレンドが確認できます。このため、ロングメインの投資家は多少なりとも恩恵を受けることができたのかもしれません。

 

続いてTOPIXの受けたマクロ的な影響を検証します。ここでは最も基本的な米株式市場から受けた影響を累積リターンで観察します。

S&P500の前日比を元に翌日のTOPIXを寄り引けで売買したときの累積リターンを示します(S&P500前日比がプラス→TOPIXを寄り引けで買い、マイナス→売り)。年初から3月までのわずか三ヶ月で累積リターンはなんと30%に達します。

この期間は日中も前日の米国市場の投資家マインドを引き継いでいたことになります。チャイナショックからの一連の急落において、日本時間でのマインド反転は難しかったのでしょう。突っ込み買いにはかなり危険な相場であったと思います。

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最後に個別銘柄の値動きをスタイルファクターの観点から追っていきます。今回取り上げるスタイルファクターは、サイズ、PBR、モメンタムの3つです。これらのファクターリターンを以下に示します。

まずサイズファクターですが、若干のうねりはあるものの全体として負のトレンドが確認できます。これは小型株効果そのものです。長年に渡ってロバストな特性が確認できるファクターの1つです。

次にPBRとモメンタムファクターですが、この両者はバラツキはあるものの同じような形で推移します。前半期はファクターリターンが正方向へ推移しており、逆に後半期は負方向へ推移しています。すなわち2016年は「前半期は割高が買われ割安が売られる」、「後半期は割高が売られ割安が買われる」、といったトレンド相場からリバーサル相場への転換があったことが分かります。リバーサルメインの投資家は前半期は苦しく、後半期は易しい相場であったと言えます。

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ではこの転換の要因は何だったのでしょうか?これは7月8日の米雇用統計による投資家マインドの好転に依るものです。6月の雇用統計(発表日は7月8日)は予想+18万人に対して実績+28.7万人という強烈な上昇であり、度重なるショックの最中でも米経済が堅調であることが再確認され、利上げ観測が強まりました(なおこの前月の雇用統計は予想+16万人に対して実績+3.8万人と悲惨なものでした)。

この日を境に株式だけでなくその他のアセットも転換期を迎えます。米10年債は同日に今年の最低利回り1.3579%をつけた後に上昇に転じます。日10年債も同日にマイナス0.282%をつけた後、上昇に転じます(日10年債は7月27日に一度だけこのマイナス0.282%を割っています)。ドル円は同日に99.98円の安値を付け、8月と9月にそれぞれこの安値を試した後、急激な円安トレンドへ転換しています。

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よってシストレ目線(およびマクロ市況目線)での今年最大のイベントは、チャイナショックでも英EU離脱でもトランプ当選でもなく「米雇用統計」なのでした。米大統領選時には既に市場の潜在心理は好転しており結果に依らずリスクオンは進んだと考えられます。このようなトレンドやレジームというものは、後になってから振り返って初めて分かるものであり、その切り替わりを予測しようとすると痛い目を見ます。

本コラムはこれで終わりです。2017年は、どうか世界的な金融危機が訪れませんように。