相場で利益を得るためにはトレーディング・エッジが必要です。
トレーディング・エッジの厳密な定義は「トレードにおける統計的有意性」となります。これは単に期待値と考えても構いませんが、その場合は期待値の「確からしさ」が問題となります。バックテストの期待値は「その母集団で偶然(もしくは恣意的に)その値になった」だけであり、期待値の真の値がどのくらいの範囲に存在するか、信頼性区間として把握しなければなりません。これをハッキリさせないためにストラテジーの良し悪し(つまり実運用で利益が出るかどうか)が判断できないのです。
トレーディング・エッジはもう少し広義の意味で「他の取引参加者に対する優位性」との解釈もできます。今回は広義の意味でのトレーディング・エッジが何処に存在するのか考察します。
そもそも当然の話ですが、トレーディング・エッジとは取引者の能力に起因するものです。この能力は、(1)分析力、(2)執行力、(3)資金力の3つに分類することができます。以下、それぞれについて説明します。
(1)分析力
相場のデータからリターンに結びつく統計的有意性を見出すことができる能力です。この能力は以下の通り、多岐に渡る能力から構成されます。
・一般に入手が困難なデータを入手するためのデータ収集能力
・一般に無視されるようなデータに着目するための企業分析・証券分析の知識および経験
・入手した膨大なデータを解析用のデータに加工するためのデータ処理技術-大規模なデータ処理のための計算環境の構築能力(ハード面)、-大規模なデータ処理を実現するプログラミング能力(ソフト面)
・データに応じて正しく分析手法を選定し、正しく結果を判断するための統計的知識
・統計解析や機械学習の専用ツールを扱える能力
・最新の金融工学やトレード手法、トレードアイディアを把握するための調査能力
・天才的な閃き
(2)執行力
実際の取引執行において、他の取引参加者よりも有利な約定を実現するための能力です。米国市場におけるHFTや取引コスト削減を目的としたアルゴリズムがこれに当たります。
また分析によって得られたエッジの内、物理的に回収が難しいエッジを回収できる能力とも言えます。これは個人投資家向けの手法としてはザラ場の自動発注が挙げられます。発注時間短縮によるスリッページ(注文の意思決定価格と実際の約定価格との乖離)の極小化が目的です。ザラ場の発注は以下のような手法が考えられます。
・寄付直後:ギャップデータを織り込んだ銘柄選定
・ザラ場中:指値が約定しそうな銘柄の優先発注、状況に応じた指値の自動修正や追加発注
・引け直前:日中データを織り込んだ利確/ホールド判定や新規発注
(3)資金力
これは単純にレバレッジまで考慮した買付余力です。資金の用途としては、多銘柄発注・多段ナンピンがこれに当たります。シグナルの出た銘柄を全て取引できた場合、成績が安定することが多くなります。また極端な話、仮に無限大の資金があれば相場で負けることは決してありえません。
上記の能力のうち複数を備えていればリターン獲得は比較的容易と考えられます。もちろん一朝一夕での獲得はできず、継続的な努力が必要となります。
さて、ここからは個人的な意見なので読み飛ばしていただいて構いません。システムトレーダーは一般的な有償(ごく稀に無償)の銘柄選定ツールを使用する場合が多いのですが、このような銘柄選定ツールでは冒頭で説明した通り統計的有意性を確認することはできず、分析のテンプレートが決まっているため他の使用者に対する差別化が難しいというデメリットがあります。
さらにこのようなツールで行える詳細分析とは、実のところ統計的有意性を削る行為に他なりません。よって「銘柄選定ツールを保有しておりそれを扱える能力」は、上記の(1)に該当しているとは言えません。このようなツールを使用する場合、上記の(2)を組み合わせて使用しないと利益が出ない、もしくは安定しない場合が殆どだと思います。
では「偉そうなことを書いておいて手前の能力はどうなんだ」と思われるかもしれません。当然ながら能力不足を実感しているため、このように自身の勉強用にブログを立ち上げている次第です。