パンローリング本から非常に有用なものを紹介します。
本書の邦題は「テクニカル分析の迷信」となっており、あたかもテクニカル分析を否定しているようなタイトルと受け取られてしまいます。
しかし、原題は「Evidence-Based Technical Analysis」であり、直訳すると「エビデンス(根拠)に基づくテクニカル分析」となります。
前回コラムの「フィナンシャル・モデリング・チャレンジのパラドックス」についても詳細な説明が記載されています。
先に断っておきますが、単行本価格は10584円、Kindle価格は7884円と非常に高価な本です。
有用な内容が記載されていますが、全体として冗長であり翻訳の都合もあって非常に読みにくい本となっています。
興味のある方は、本屋で立ち読みした後に内容に納得してから購入すべきと思います。
(なお、私はKindle Unlimitedで購読しました。現在はUnlimited対象外となっているようです)
1.著者について
著者のデイビッド・アロンソン氏は、NYのビジネススクールでテクニカル分析およびデータマイニングの講師をしています。
アロンソン氏は、1970年代にはメリルリンチでブローカーとして働いており、1980年代にはAdvoCom社というコンピュータ計算に基づく先物ポートフォリオ構築のアドバイザー会社を設立します。この会社は1990年代には、かのチューダー・インベストメンツのアドバイザーを務めています。
また、1982年に創設したRaden Research社では、PRISMと呼ばれる投資用のデータマイニングソフトを開発し、チューダーをはじめ各投資機関のモデル開発を請け負っていました。
この本は2006年発刊ですが、直近の2017年8月には「Technical Indicator Engineering for Machine Learning」という機械学習向けの書籍も出版しています。
2.書籍の内容
この本の真の価値は、第6章に詰め込まれています。
第6章のタイトルは、「データマイニング・バイアス-客観的テクニカル分析の落とし穴」です。
以下、この章に書かれている具体的な内容を列挙します。
・なぜアウトオブサンプルでパフォーマンスが低下するのか
・テクニカルアナリストはなぜデータマイニングを必要とするのか
・観察されたパフォーマンスの正しい使用方法
・データマイニング・バイアスの2つの要因
・データマイニング・バイアスの大きさを決める5つの要因
・データマイニング・バイアスの扱い方
最も特徴的であるのは、これらの内容について数値シミュレーションを行って実際にデータマイニングをしたときの挙動がどうなっているか確かめている点です。
このような検証は、私も以下のコラムで実践したことがあります。
関連コラム:
最後に、本書で印象に残ったセンテンスを引用します。
「アウトオブサンプルのパフォーマンスが低下するため、データマイニングを行わない者もいる。しかしこれは賢明ではない。データマイニングを行わないテクニカルアナリストは、依然として馬車にこだわるタクシードライバーのようなものである。」
「データマイニング・バイアスを排除するために、結局は演繹的考察に頼るしかない。しかしその判断を人知に依らずインテリジェントな手法で実現する。これこそ投資における人工知能の本来の役割である。」
おっと、2つめのセンテンスは私の言葉でした(笑)。