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(旧 システムトレードのススメ)

AIファンド セレベラム・キャピタルとは

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「AIファンド、日本で販売 セレベラム・キャピタル」 日経新聞、2017年10月12日

 

www.nikkei.com

 

「セレベラム・キャピタル」の名前を見付けた瞬間、少し興奮してしまいました。

 

セレベラム・キャピタル(以下セレベラム)は、米サンフランシスコに拠点を置くAIヘッジファンドです。

リベリオン・リサーチに続く「純粋なAIヘッジファンド」であり、2010年にWSJでその存在が報じられました。

 

私はAI投資の構想を練っているときにこれらのAIヘッジファンドについて丹念に調査を行っていました。

セレベラムに関するニュースや記事は海外メディアにも殆ど存在せず、調査に苦労したのを覚えています。 

 

参考までにセレベラム(Cerebellum)とは、人間の「小脳」を意味します。

人工知能に連想させてそのような名前を付けたのでしょうが、日本語で「小脳ファンド」と呼ぶと気味が悪くて資金が集まらないかもしれませんね(笑)。

 

 

1.ファンドについて

 

(1)創設者

 

このファンドは、デイビッド・アンドレ氏とアストロ・テラー氏(すごい名前ですね)によって2009年に創設されました。

 

現在、アンドレ氏はCEOを、テラー氏はディレクターを務めています。

 

実は、このテラー氏は知る人ぞ知る有名人です。

テラー氏は非常にユニークな履歴の持ち主であり、かつては作家としてパラマウント社へ小説を売り出したこともあります。

 

テラー氏は現在、Google XのCEOも兼任しています。

Google Xとは、Googleの次世代機密プロジェクトを扱う子会社であり、その最高責任者はGoogleの共同創設者のセルゲイ・ブリン氏となっています。

 

セレベラムのバックにGoogleがどれだけ入り込んでいるかは不明です。

何ともスケールの大きい話です。

 

 

(2)ファンドの運用状況

 

このファンドの運用利回りは非公開であり、全く不明です。

しかし運用資金(AUM:Asset Under Management)については米国SECへの提出書類に記載があるため知ることができます。

 

運用開始時のAUMは1000万ドルであり、そこからAUMは上昇の一途を辿り2015年末には2億8000万ドルに達します。

ところが2016年にはこれが1億ドルまで減少しています。

何らかの事情によりいくつかの口座を解約しているようです。

 

従業員は8人でありファンドとしては小型の部類に属します。

 

 

(3)日本でのファンド販売 

 

日経の記事にあるように、日本ではベイビュー・アセット・マネジメントが窓口となって機関投資家向けに販売するようです。

 

セレベラムは2017年4月に新規のAIファンドを売り出しており、これがベイビューを通じて販売されるのかもしれません。

 

また、セレベラムは2016年12月に米大手のヴィクトリー・キャピタルと提携して出資を受けており、この関係でヴィクトリーと繋がりのあるベイビューが販売することになったのだと思われます。

 

上記(2)で触れた口座解約によるAUMの減少も、もしかするとヴィクトリーとの絡みなのかもしれません。

 

 

2.運用戦略(AIの活用方法)

 

(1)運用戦略の特徴

 

セレベラムの運用戦略は、他のAIファンドとは一線を画しています。

 

セレベラムの手法の特徴は、とにかく多数の戦略(以下システム)を生成することが挙げられます。

ここで各々のシステムは人間の意志が介在することなく、その生成は完全に自動化されています。

 

AI(機械学習)は単なる自動化のメソッドであり、セレベラムがマンパワーを注ぎ込んでいるのは自動化におけるフレームワークの与え方の検討です。

 

これは「どのようなフレームワークを与えると利益となるシステムが生成できるか」という検討です。

このフレームワークとは即ち、ユニバースの作り方、取引スパンの選択、ベンチマークの選定、データソースの選び方などを指します。

 

 

(2)システムの自動生成

 

システムの生成には遺伝的アルゴリズムに代表される進化的手法が用いられています。

利益の出たフレームワークや条件は他のシステムへも転用され、拡充を図ります。 

 

1つの取引スパンごとに数百のシステムが生成され、コンペティションのようにリーダーボードを形成します。

評価基準としては高シャープレシオが優遇されており、複雑なシステムには罰則が課せられ、他のシステムとの相関も重要な要素となっています。

 

このリーダーボードの上位のシステムを組み合わせて実際に運用することになります。

 

 

(3)つまりこれは

 

ここまでで分かるように、セレベラムの行っていることは「高度な全数検索」です。

多数のフレームワークが与えられた世界で、機械が自動的に条件を組み替えて利益が出るシステムを探索するのです。

 

以下のコラムでも紹介しましたが、これには当然ながらデータ・スヌーピング・バイアスの罠が付きまといます。

 

関連コラム:(読むことを強くお勧めします) 

we.love-profit.com

 

 

(4)バイアスへの対応

 

リーダーボードへのランク付けの際の罰則項により、ひとまずオーバーフィッティングへの対応は取られています。

 

それでも発生するデータ・スヌーピング・バイアスについて、「Sieve(ふるい)」と呼ばれる学習関数によってシステムの選別を行っています。

 

「Sieve」は、様々な特徴量からアウトオブサンプルのパフォーマンスを予測するための分類関数であり、1期前のデータから学習されます。

 

「Sieve」を使わない場合、リーダーボードに並んだシステムで利益を出すものは52%程度に留まるのに対し、「Sieve」を使った場合はなんと75%まで向上するとのことです。

 

これは「インテリジェントな手法で演繹的考察を排除」できた好例なのかもしれません。

 

 

(5) セレベラムのAIはウォール街を乗っ取るのか

 

セレベラムのシステム生成はリアルタイムで人間が行うように繰り返し行われています。

その都度、人間が新たに探してきたデータを取り込むようになっています。

 

セレベラムのアプローチとは以下のコラムに記載したとおり、「世界の変化を注視しながら、次々と新しい戦略を考案し、試行錯誤を繰り返す」というプロセスを人間とシステムで分担する新しい手法なのかもしれません。

 

関連コラム:(読むことを強くお勧めします) 

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セレベラムの手法は非常に興味深いものであり、今回記事を書くにあたってセレベラムとコンタクトを取り何か資料を求めましたが、残念ながら現在まで返信は頂いておりません。