上記は9月16日にパンローリングから出版されたトレード書籍です。
副題の「ビッグデータによるセンチメント分析」というフレーズが気になったので購入しました。
原題は「Trading on Sentiment : The Power of Minds over Markets」です。
1.著者について
著者のリチャード・ピーターソン氏は、行動経済学者であり精神科医です。
テキサス大学で電気工学の学士号および医学の博士号を取得後、スタンフォード大学で精神科医の資格を取得しています。
同氏は市場分析を行ってセンチメント指数を算出しているマーケットサイク社のCEOです。
この指数はトムソン&ロイター・センチメント指数(Thomson & Reuter Marketpsych Index)と呼ばれ、世界のニュースソース4万件、SNSや掲示板など7000件のビッグデータから市場のセンチメントをリアルタイムでマイニングするものです。
この指数は世界130カ国、個別銘柄7500社、31の通貨、34のコモディティをカバーしています。
同氏の著書は以下の本があります。
2.書籍の内容
この本は5部構成となっています。
トレード手法の手掛かりを得たい人にとって、特に第2部と第3部がユニークな内容となっています。
第1部 基礎
投資家の行動に焦点を当てています。
第1部の内容は、行動ファイナンス系の本にはありがちな内容です。
パンローリング特有の冗長さがハッキリ言って面倒くさいです(失礼!)。
セイレーンの話なんて必要なんでしょうか?
第2部 短期のパターン
ニュースやSNSがもたらす短期パターンについて解説しています。
ニュースの情報を基にしたトレード手法の紹介があります。
この書籍のトレード手法はロングショートです。
特定の指標に対して買いと売りを組み合わせることで、マーケットリスクを軽減する手法です。
バランスカーブの記載がありますが、「米国市場よりもカナダ市場のほうがパフォーマンスが優れる」など、面白い結果が見て取れます。
第3部 長期パターン
センチメントがもたらす長期パターンについて解説しています。
特に秀逸な内容は、通常のモメンタム投資やバリュー投資の手法について、「銘柄のセンチメントを考慮して選定するとパフォーマンスが劇的に改善する」、といった内容です。
また、「各国の政府の不安定さを指数化し、それに基づいて各国の主要株価インデックスでロングショートを組む」、という発想も非常に面白いですね。
第4部 複雑なパターンと珍しい資産
投機(バブル)のパターンや商品先物について触れています。
バブルのパターンに特筆すべきものはありません。
為替や商品先物について記載がありますが、ボリュームはそれほど多くありません。
相場のセンチメントをレジームとして使うというアイディアも記載されています。
第5部 心を管理する
集団行動とバイアスの回避方法などが記載されています。
特筆すべきものはありません。
付録としてトムソン&ロイター・センチメント指数の詳細な説明が記載されています。
3.所見
このようなビッグデータのセンチメント分析は、2010年のインディアナ大のツイッター分析の研究で注目を集めたように思います。
筆者はそれよりも前の2004年頃から研究を始め、2008年には本コンセプトによるファンドの運用を開始し、2011年にはトムソン&ロイターと提携してインデックス開発に着手しています。
ただ気になる点としては、
このようなビッグデータ分析の手法を基に実運用した(している)という話は聞きますが、上手くいった(いっている)という話を聞いたことがありません。
(単純に情報が出てこないだけかもしれませんが)
個人的な意見ですが、市場のセンチメントというものはVIXや10年債利回りなどの他の指標で比較的簡単に代理変数を作れてしまいます。
これらの既存の指標に対してわずかながら早く反応する可能性はありますが、
ビッグデータによるセンチメント分析はあくまでもアナリストの投資判断支援等に使うべきであり、それがそのまま投資指標とはなりえないような気がします。