「コラムを不定期掲載にする」と通知した矢先に気になる話題が発生してしまいました。
三菱UFJ信託銀行は2月1日に国内で初めて個人投資家向けのAI投信をリリースしました。さっそく販促用資料をもとに内容の分析を行いました。
(販促用資料:http://www.tr.mufg.jp/cgi-bin/toushin/tsl.cgi/funds/03314172/hanbai_shiryou.pdf)
◆運用戦略(販促用資料より)
「株式個別銘柄戦略」と「先物アロケーション戦略」の組み合わせで絶対収益を追求するようです。この両者ともにAIが使われます。
1.株式個別銘柄戦略
個別株式のロングと先物ヘッジを組み合わせて市場要因を排除しながら個別銘柄の収益を狙う。以下の2つのモデルの組み合わせによる。
(1)安定高配当モデル(中長期向け)
決算短信などの文字情報と配当利回りを組み合わせて、安定且つ高配当な銘柄を選定する。
(2)ニュースピックモデル(短期向け)
ニュースやアナリスト情報を用いて銘柄選定する。
2.先物アロケーション戦略
マーケットの上昇時に1のヘッジ量を減らし、市場上昇の収益を一部獲得する。以下の3つのモデルの組み合わせによる。
(1)日次予測モデル
ディープラーニングによる翌日の市場動向の予測。
(2)月次予測モデル
過去の投資環境との類似性から1ヶ月先の市場動向の予測。
(3)転換点予測モデル
株価やインデックスの値から相場の転換点を日々予測する。
◆組み入れ銘柄例(販促用資料より)
2016年9月時点で157銘柄を組み入れています。ウェイトの上位10社は、大型銘柄で配当利回りが高いものが中心となっています。
◆バックテスト結果(販促用資料より)
(1)検証期間
2009年3月末~2016年9月末(90ヶ月=7年と6ヶ月)
(2)取引コスト
税金や手数料は考慮せず。リバランス時の執行コストは含まれていないものと考えられます。
(3)運用利回り
平均年利8.6%程度。キャピタルゲインだけで配当は含まれていないものと考えられます。上記から信託報酬1.296%が控除されます(購入時手数料は3.24%)。
(4)月次勝率
71%程度(64勝26敗)
◆考察
上記は販促用資料をまとめただけであり、ここから詳細な考察に入ります。このAIファンドは様々な戦略を組み合わせているようですが、基本となる戦略は「高配当銘柄投資」であることが、組み入れ銘柄を見ても明らかです。このAIファンドが単純な高配当投資に対してどのくらいアウトパフォームしているのか検証します。比較対象となる単純な高配当投資は以下の通りです。
(1)投資対象
TOPIX500銘柄のうち、配当利回りランク上位100社
(2)ウェイト
均等ウェイトとし、同額のTOPIX先物を売り建て(ヘッジ)
(3)リバランス
月末に決済しランキングを再計算して翌月初に新規建て
◆検証結果
1.バランスカーブ
単純な高配当投資でも平均年利は7.2%程度あります。
2.検定
(1)分散
P値=0.02038であり、両者の分散には差がありそうです。従って、AI採用により収益のバラツキは安定したと言えそうです。
(2)平均
P値=0.64550であり、両者の平均には差があるとは言えません。従って、AI採用により収益性が高まるとは言えません。
この結果だけ見ると、AIによる改善効果はそれほど大きくないと言えそうです。単純な高配当投資には改善の余地が十二分に存在します。ロバストな指標を使っているため、リリース直後に急激に成績が悪化することはなさそうです。「高配当狙いでなくもっと面白い手法が見たかった」というのが本音となります。