次に注目したいのが、海外投資家地域別売買状況です。北米、欧州、アジア、その他の4つの地域別で集計されています。
ここで注意しておきたいのは、海外投資家の定義です。居住場所での区切りとなるため、日本企業でも海外拠点であれば外国人投資家に分類されます。逆に、海外企業でも日本支店であれば国内投資家に分類されます。
下記は2007年から2016年までの海外投資家地域別売買代金です(買いのみ)。売買代金の水準の推移を見てみると、2008年のリーマンショック後、2009年から2012年までは停滞時期が続きます。2013年からはアベノミクスの影響でリーマンショック以前よりも回復しています。
時折発生している大きなヒゲは、それぞれ2007年8月(パリバショック)、2013年5月(アベノミクスの1次ピーク)、2015年8月および2016年2月(チャイナショック)です。またそれ以外にも、2009年3月、2010年3月、2011年3月にも周期的にヒゲが発生しています。これは日本企業の海外拠点からのリパトリエーションのための売買調整によるものです。
海外企業の決算時期は12月~1月であり、3月に大きな売買高が発生することは考えられません。よって2009年から2012年の期間中、日本の株式を売買していたのは海外投資家と言えども、日本企業の海外現地法人であることが分かります。この時期、日本の株式市場は真の海外投資家からは見向きもされていなかったということです。日本企業だけによる株式市場の特性が顕著に観察できる貴重な期間です。
続いて売買代金の絶対額ではなく構成比率を確認していきます。以下のグラフから、市場構造(取引参加者)のターニングポイントを2点確認することができます。
1点目はリーマンショック後であり、アジア投資家の比率が下がり欧州投資家の比率が上がっています。これはアジア人の投資家が日本市場から引き上げたということではなく、日本企業のアジア拠点がリーマンショック後の再編成によって欧州拠点へ統合されたと言われています。
2点目は2014年6月です。北米投資家が極端に少なくなり、欧州投資家が極端に増えています。この月に何が起こったのかパッと出てこないと思いますが、2014年6月5日にECBが初めてマイナス金利導入に踏み切り、大規模な緩和を行うことを発表しました。これにより、それまで日銀緩和目当てで集まっていた北米投資家がこぞって欧州へ資金をシフトしています。逆に欧州からは緩和マネーが流入したことになります。
このようなターニングポイントにおいて、それまで有効であった戦略の効果が急に消失するということも発生しうるのです。
最後に海外投資家地域別売買状況の少し凝った使い方をご紹介します以下のグラフは、北米・欧州の海外投資家売買代金とある銘柄のリターンの回帰係数のt値です。時折、t値の大きいものが見つかることがあります。これはつまり、その地域の投資家が選好している銘柄だということになります。
このようにその銘柄のプレイヤーが特定できれば他者よりも有利にリターン分析を進めることができます。例えば北米投資家でなく欧州投資家が選好しているのであれば、S&P500でなくDAX、米10年債でなく独10年債、USDJPYでなくEURJPYに反応するのでは、などと考えることができます。
先に断っておきますが、上記はリターン分析の考え方の一例であり、これで収益が上がるというわけではありません。重要なのは、あくまでもプレイヤーを特定するという考え方です。