これからの「お金」の話をしよう

(旧 システムトレードのススメ)

「起業なんてカンタンだよ。」

起業を考えていた女友達の話

 

とある女の子の話。

20代後半の彼女は、もともと外コンで人事として働いていたが、
そのつてで知り合った人脈を活かしていくつかの会社を渡り歩いた後、いままさに起業しようとしていた

前職で東南アジアの富裕層とコネクションを築いたらしく、月に1~2週はそちらに出張していた。
人事としての経験と、アジアでの就業経験を活かして、途上国のための人材系アプリを事業化しようと模索していた。

僕が前職を辞めた後、しぶとくベンチャー界隈で生き残っているの人づてに聞いたらしく、同年代で起業した人間がどのような状況になっているのか、その確認と自身の事業計画の相談を兼ねて、僕のところに相談しにきたのだった。

 

彼女の相談は、ひと言でいえばアプリ開発に関わる費用見積もりに関してだったのだが、一通り話し終わった後、彼女はこう言った。

 

「次回渡航した際に、ニーズを確認するために現地で調査してみます。潜在的なニーズがありそうなら、エンジニアと出資者を探してみます。」

 

大半の人は、彼女の聡明さに感心し、彼女の成功を疑わないかもしれない。
しかし僕は、彼女はきっと、この事業をスタートしないだろう、と直感した。

僕は、「これまでの君の経歴がこの事業を進める上での強みになるだろう、応援してるよ」と伝えた後、続けて「ニーズの調査なんていらないから、すぐに会社を作ったほうがいいよ」とアドバイスをした。

彼女は、少し怪訝そうな顔をしたが、すぐに微笑んで「そうですね」と短く答えた。

その様子を見て、僕の直感はあえて伝えないでおいた。

 

結局のところ、選ぶのは彼女である。
ここで僕が黙っていても起業する人はするだろうし、逆に何をアドバイスしたとしても、起業しない人はしないのだから。

結局、その数か月後、彼女は起業せずに他の会社に転職した。

 

起業を計画していた学生たちの話

 

彼は、誰もが知る有名大学の法学部に在籍していた。

大学2年生への進学を控えた春休みに、インターンとしてうちの会社にやってきた。
彼は地頭がよく、何を教えてもすぐに吸収して応用ができるという、典型的な優等生だった。

 

彼は、役員連中がビジネスや収益化の話をしていると、決まってにじり寄ってきて、興味深そうに話を聞いていた。

そう、優秀な彼がインターンとして中小企業に雇われているのにはもちろん理由があった。

彼は、数人の学生仲間と起業の計画を立てていたのだった。
実際に収益化に漕ぎつけたベンチャー企業でインターンをすることで、数多くを学び取ろうと考えていた。

 

最近の学生が、いったいどのような事業を興そうとしているのか?
大変に興味があった僕は、彼にいろいろと話を聞いてみたくなった。

彼は将来について真剣に考えており、その一番の岐路に差し掛かっていた。
彼の岐路とは、司法試験に受かって弁護士の道を進むのか、あるいは学生のうちに起業するのか、という二択だった。

どちらも生易しい道ではない。
二兎追って両方得られるものではないと自覚しており、司法試験の準備を本格的に始めるリミットとして、あと1年を考えていた。

 

本当に、最近の学生はしっかりしている。
ほとほと感心した僕は、事業モデルができているのであれば、アドバイスをするよと伝えた。
彼は目を輝かせ、一緒に起業を計画している友人を連れてくるので、ぜひ話を聞いてほしいと言った。

 

そしてその当日。

 

彼の起業仲間は、駒場にあるあの大学の学生だった。

頭の回転が速いらしく、僕が何か言うたびに、会話が終わる前に「あ~そういうことですね、分かりました。」と遮った。
普通ならここで「本当にこいつ大丈夫か?」と疑うところだが、彼の表情と眼の奥を見ると、彼が話の本質を短時間で理解しているであろうことが読み取れた。

彼らのビジネスは、詳しくは割愛するが、民泊を前提としたオーナー向けのサービスだった。
はっきり言うが、事業モデルとしては拙かった。
そのサービスを使うメリットが分かりづらいし、数字の裏付けもない。

プレゼンを終え、意見を求めてくる彼らに、僕はこう答えた。


「いいんじゃない、やってみれば?」

 

彼らはきょとんとしていた。

いろいろなダメ出しを覚悟していたのだろう。彼らの事業モデルが穴だらけであることは、彼ら自身が一番よく理解しているようだった。

僕の発言については話の本質を理解できていなかったようなので、
今回は僕は、自分が思っていることをなるべく分かりやすく伝えようと思い、僕の発言が以下のような経験に基づくものであることを伝えた。

 

計画だけでなく、やってみて初めて気づくことがたくさんあること。
そして、本当に重要なことはその気づきの中に潜んでいることが多いということ。
実際にやってみて得られた知見は、自分の中に蓄積されていき、財産となること。

 

最初の計画は99%うまくいかないこと。
そして、うまくいかない物事を試行錯誤して何とかしていくことで、腕力が身に着くこと。
ビジネスを押し進めるには、時にこの腕力が重要になること。

 

成功している企業は、試行錯誤の過程で転換点を見つけている場合が多いこと。
僕らの会社も、たまたまその転換点に巡り合えたこと。

 

計画時点で問題だと思っていることは、実は大した問題でないことが多いこと。
起業したら問題続きになるので、当初の問題など構っていられないうちに、自然と解決できてしまうことがままあること。

 

だから、始めるみるしかないのである。

パラグラムのようであるが、始めることだけが、唯一、始めるために必要なことなのである。

 

そして彼らもまた、数か月後に決断した。

検討の結果、思うほどに収益化できる見込みがないと判断し、事業化は見送るとのことだった
今現在、インターンの彼は弁護士を、駒場の彼は官僚を目指している。

 

結局、彼らは事業を始めることはなかった。
おそらく、今後の人生でも、起業することはないように思う。

彼らは、あのときの彼女同様、聡明すぎたのだろう。


彼女はなぜ起業しなかったのか?

 

話を外コンの彼女に戻そう。

なぜ、僕は彼女は起業しないだろうと直感したのか。
それは、彼女が「成功しそうなら始めるし、成功しそうでないなら止めておく」と言っているからだ。

上の文面を冷静に見てみれば、彼女が起業しない(できない)理由がお分かりになるだろう。
彼女は、起業に対して成功の確実性を求めており、なおかつ、彼女は調査によってその確実性を検証しようとしている。


残念ながら、市場や競合を調査して得られるのは、「成功の確実性」でなく、「新たな不確実性」だ。
むしろ真逆なのである(例えば以下のようなもの)。

本当にニーズがあるのか?
→ニーズがあったとして、本当に使ってもらえるのか?

すでに有力な競合がいるのではないか?
→有力な競合がいなかったとしても、大企業の資本が後発で参入してきたらどうするのか?

 

彼女は調査の過程で、こう思っただろう。

「思ったよりも成功する確率が低いかもしれない。」

「そのリスクに見合っただけの収益が見込めないかもしれない。」

「よし、もっとニーズがハッキリしていて、競合が少なくて、安定した収益を見込めるビジネスを探そう。(それまで起業はペンディングで!)」

 

当然、これらを満たすようなビジネスがそうそう転がっているわけはない。

そもそも、成功が100%保証されているものなんて、起業に限らず、存在しないのである。
彼女の事業モデルがどんなに素晴らしくとも、途中で頓挫する可能性のほうがよっぽど高いのだ。

 

だから君が、もしも起業しようと計画しているのなら、こういうふうに考えてみよう。

 

「成功しそうか分からないから、とりあえず始めてみる。」

 

そう、まずは始めてみる。これだけなのだ。

 

分からないことにチャレンジしたり、新しいことを始めることは、素晴らしいことだ。
知ってることを繰り返しすよりも、何倍も多くの発見がある。

それらの発見は、積み重なり、やがて過去の経験と結びつく。世の中には様々な現象が存在するが、実はその多数は、似たり寄ったりの事象が形を変えて現れているだけではないか。

すると、次の新しいことを始めたとき、「新しいけどコレってどこかで知ってる」という感覚を得ることができる。

この感覚こそが、成功の確率を少しだけ上げてくれるのだ。

 

 

そんなわけで僕は、次に僕のところに起業したいと相談に来た人にも、無責任にこう答えるだろう。

 

「いいんじゃない、やってみれば?起業なんて、カンタンだからね。」