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(旧 システムトレードのススメ)

株式市場におけるアルファ碁とは

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長くなるので省略しましたが、正式タイトルは「株式市場におけるアルファ碁とはアルファ碁たりうるのか」です。

5月23日~27日に行われた「Future of Go summit」で、囲碁の世界ランク1位の柯潔九段とアルファ碁の対局が行われました。結果としてアルファ碁の3勝0敗であり、その力の凄まじさを見せ付けられる結果となりました。

 特に第3局(黒番アルファ碁)では、アルファ碁は序盤から人間には考えられないような手を連発し(黒13の詰め、黒21の手抜き、など)、一気に形勢を決めてしまいました。このように絶対的な法則に支配される世界では、AIの優位性が確立されたと言えるのでしょう。

では、果たしてこれが株式市場であればどうでしょうか?今回は株式市場についてディープラーニングを適用したときの結果から検討を進めます。

 

今回の検討では畳み込みニューラルネットを使います。畳み込みニューラルネットは、データの持つ次元構造を保持するため、データの与え方によっては単純なニューラルネットよりも良い結果が得られるのでは、と考えてのことです。

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◆ディープラーニング概要

(1)ニューラルネット構造

・畳み込みニューラルネットワーク

・層数=3(この程度の層数でディープと呼べるのかは分かりませんが)

・各層のフィルタ数、ニューロン数は非公開です。 

(2)データセット

・説明変数は非公開です(大したものは使っていません)。

・畳み込みを使うため、データセットの構造を少し工夫しています。

・目的変数(解答ラベル)は銘柄の騰落率であり、0/1の2値です(平均より上昇/下落)

(3)訓練(インサンプル)データ/検証(アウトオブサンプル)データの考え方

・以下の図のように、1つの訓練データと2つの検証用データを使います。

アウトオブサンプル1:訓練データと同一期間のものからランダムに抽出(当然、訓練データから除外しておきます)

アウトオブサンプル2:訓練データに対して未来の期間のもの

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(4)結果の比較

・ベンチマークとして同一説明変数の線形モデルの識別精度を算出し、比較を行います。

 

◆結果

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上記の結果を見て、「ディープラーニングによるモデルは過剰フィッティングが発生している」と言えるのでしょうか?

結論として、「過剰フィッティングが発生しているとは言えない」と思います。これはアウトオブサンプル1データでの劣化度合いがそれほど大きくないことが理由です。訓練データの期間においてディープラーニングは市場を良く表現しておりモデル化の結果は良好です。にも関わらずアウトオブサンプル2データで識別精度が大きく劣化する理由は、「株式市場は水物であり、期間を隔ててモノが変わっている」としか言えないのです。

もう少し、詳細を見ていきます。下記は、ニューラルネットのフィルタ数およびニューロン数が多いモデルと少ないモデルの比較です。モデルの規模を縮小して表現力を落とすと、アウトオブサンプル2での識別精度が向上します。その最高識別精度は約52%であり、線形モデルのそれとほぼ同等です。

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要するに株式市場では時系列での構造変化(テーマの変遷とも言えます)が発生するため、特定の期間において市場構造を上手く表現することに「意味がない」ということです。

 囲碁で例えるならば、過去の数十万局のデータから学習させたアルファ碁をいざ人と対戦させてみると、そのときには囲碁のルールが全く変わっていた、ということになります。例えばコウの上限が定められたり、ツケが禁止になったり、辺を1目として数えなくなったり、という極端なルールの変化です。

よって株式市場でアルファ碁がアルファ碁であるためには、上記のようなルールの変化の予測までを組み込んでいなければなりません。単純なアルファ碁では与えられた世界にのみ強く適合しているため、このような変化に対応できません。逆に言うと、適合の度合いが弱ければ弱いほど、極端な変化に対してロバストとなる可能性があります。

では、このルールの変化とは予測できるものなのでしょうか。当然、そこには絶対的な法則は存在せず、それゆえにフレームワークも決めることはできません。単純にモデルにデータを与えても、解決の糸口は見えてこないのです。株式市場におけるAIの取り組みとは、他の分野と比べてかなり異質なものと言えるでしょう。