これからの「お金」の話をしよう

(旧 システムトレードのススメ)

過去記事-株価とマクロ経済学(2)

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為替と物価の話に先立って、まずは金利iが為替に与える影響について説明します。

金利と為替の関係は、購買力平価および利子率平価から以下の式で表すことができます。この式は有名な理論のため説明は割愛します。ダッシュなしは本国(ここでは日本)、ダッシュ付きは外国(例えば米国)を示します。

 為替レート変化率⊿e=(i-Π)-(i’-Π’)

ここで、e:邦貨建て為替レート(つまりドル円でなく円ドル)、i:金利、Π:インフレ率(物価上昇率)。i-Πは物価変動を考慮した金利であり、「実質金利」と呼びます。日本の実質金利が高い場合(すなわち金利高もしくはデフレの場合)、円高となります。日本の実質金利が低い場合(すなわち金利安もしくはインフレの場合)、円安となります。

 

為替レートの変化は、GDPの第4項である経常収支CA=X-Mにも影響を与えます。ここでは結論のみ簡潔に記述しますが、為替レートの減価(ここでは円安)は、短期的には輸入価格の上昇を招いて(つまりMが増大して)、経常収支CAを赤字化させますが、長期的に見ると交易条件を改善して輸出Xを押し上げ、最終的に経常収支CAが黒字転換します。いったん沈んでから時間経過して浮上するため、この効果を「Jカーブ効果」と呼びます。

 

経常収支が黒字かどうかということは、GDP変化率をプラスで推移させる上では重要なことですが、庶民の実生活や景況感を考える上では殆ど意識することはありません。むしろ、為替レートの変化に起因する物価の上昇のほうが問題となります。物価の上昇要因ですが、ある製品の価格Pは下記で決定されます。

 P=利益マージン×製品1単位当たりのコスト

ここで製品1単位当たりのコストCは、下記で表されます。分子は総原価を意味します。

 C=(W×L+Pr×R)/Y

ただしY:総生産量、W:賃金、L:雇用者数、Pr:原材料価格、R:原材料の投入量

原材料や燃料の大半を輸入に頼る日本では、原材料価格Prは邦貨建て為替レートeとドル建て原材料費Pr’を用いてPr=e×Pr’となり、下記となります。

 C=(W×L+e×Pr’×R)/Y

ここで生産量および生産性が一定であるとすると、価格の変化率(つまりインフレ率)pは下記のように表すことができます。

 p=⊿C=α×⊿W+(1-α)×(⊿e+⊿Pr’)

ここで、α:コスト全体に対する労働力の割合、(1-α):コスト全体に対する原材料の割合、⊿W:賃金上昇率、⊿e:為替レートの減価率、⊿Pr’:ドル建て原材料の変化率。⊿Pr’は原油価格の上昇率と考えてください。

 

すなわち、インフレに寄与する項目は3つあります。

(1)⊿Wの増加、すなわち賃金の上昇

これは「良いインフレ」です。賃金が上昇しているため需要も改善し、回りに回って売上高も向上します。「ディマンドプル型」のインフレと呼びます。

(2)⊿eの増加、すなわち邦貨レートの減価であり円安

これは「悪いインフレ」です。無理やり原材料の価格を押し上げる「コストプッシュ型」のインフレと呼びます。そもそもエネルギーの殆どを輸入に頼る日本にとって、円安はメリットよりもデメリットのほうが大きいことは明白です。

(3)⊿Pr’の上昇、すなわち原油高

これも「悪いインフレ」です。現在、世界的な需要減退と供給過剰から原油価格が低迷していますが、これは原油産出国ではない日本にとって非常に大きな「追い風」となります。

望ましいインフレは①しかなく、故意的な円安政策によるインフレ誘導は、良い側面よりも悪い側面のほうが目立ちます。